他の誰かのあなた

私は子供の時のことを思い出していた。



あれはまだ小学生の低学年のことだった。
ある日、同じクラスの女の子が、お母さんの手作りという花柄のワンピースを着て来た。
確か、薔薇柄で、どこか大人っぽくて、やけに目立つ服だった。
クラスのみんなが、その服をほめた。
その様子を見ているうちに、私はその服が欲しくてたまらなくなった。



お母さんに言ったら、似たようなものを作ってあげると言ってくれたけど、私は似たようなものじゃなくて、それが欲しいのだ。
しつこく食い下がり、ついには当の本人に、その服が欲しいと申し出た。
だけど、そんなこと、聞き入れてもらえるはずもない。
悔しくて、何度、泣いたことかわからない。



それからしばらくして、友達が、可愛いいちごの形の消しゴムを学校に持ってきた。
可愛いだけじゃなく、いちごの香りまでして、なんでも、東京のデパートで買ったということだった。
もちろん、すぐにクラスで話題になった。



私はその消しゴムが欲しくてたまらなくなったのだけど、ちょうだいと言ったところでもらえるはずがない。
そのことはわかっていたから、私はついに、その消しゴムを盗んだ。
とても嬉しかった。
その晩は、消しゴムを握り締めて眠った。