他の誰かのあなた





(あれはどういう意味なんだろう?)



「き……由希。」

「え?」

「どうしたの?ぼーっとして。」

「ご、ごめんなさい。
今日、習ったところが難しくて気になって…」

私は咄嗟にそんな嘘を吐いた。



「君は、本当に何にでも熱心だね。
このパン、美味しいよ。
生地が最高だね。」

「そう、良かったわ。」

嬉しそうにパンを頬張る柴田にほっとする。
だめだ、気分を切り替えないと。
そうは思うのだけど、雅人の最後の言葉が気になって頭から離れない。



『次は食事に行きましょう。』



また私に会う気があるってこと?
それとも、単なる社交辞令?
晴美も一緒に行こうってことなんだろうか?



気になって、気になって、どうにかなってしまいそうだ。



「ねぇ、あなた……」

その晩は、私から柴田を誘った。
雅人のことを考えると、体がほてって仕方なかったからだ。



固く目を閉じて、私は頭の中に雅人を思い描いた。
あの綺麗な瞳…形の良い唇…逞しい腕…



やはり、諦めきれない。



(雅人……)



彼の名を呼んでしまわないように、真っ白になる頭の中、必死で堪えた。