他の誰かのあなた

それから数日後、私は雅人の会社の傍にいた。
もうじき、雅人が出て来る。
そう思ったら、胸がときめいた。



(あ……)



雅人の姿をみつけた。
幸い、彼は今、一人だ。
私は物陰から出て、バッグの中を探りながら歩いた。



「あれ?由希さん?」

私はその声にハッとしたように顔をあげた。
全く白々しい芝居だ。



「あ、雅人さん!どうしてこんな所に?」

「僕の勤め先、すぐ傍なんですよ。」

雅人は微笑んでいる。
しかも、私に声をかけて来るってことは、嫌われてはいないということだ。
だけど、急いではいけない。



「あ、雅人さん、良かったらお茶でもいかがですか?
って、そんなことしたら、晴美に叱られるかな?」

「そんなことありませんよ。
僕も今、喉が乾いてたんです。行きましょう。」

歩き出した雅人に歩を合わせる。
作戦は成功した。
私のすぐ隣には、雅人がいる。
伸ばしそうになる手を理性で堪えた。



「ところで、由希さんはなぜここに?」

「買い物です。この近くに美味しいパン屋さんがあって…」

私はさっき買ったパンの袋を見せた。
きっと、こういう質問をされると思い、買っておいたものだ。