他の誰かのあなた

柴田は面倒見の良い人だから、時々こういうことも頼まれているようだ。
柴田は、夫としてだけではなく、人として善い人物なのだ。



「あ、ケーキ買ってきたよ。食後に食べましょう。」

「ケーキも?
ねぇ、本当に良いことなかったの?
まさか、ケーキも安売りしてたわけじゃないよね?」

「だから、何もないってば。
ランチ食べて、ブラブラしながら服を買って来ただけだもの。」

「気に入った服はみつかった?」

「まぁまぁかなぁ。」

どんな服を買ったのかさえ、覚えていなかった。
そのくらい、どうでも良かったのだ。
クローゼットには、多過ぎる程の衣類が並んでいる。
特に新しい服なんて欲しくはなかった。
ただ、出かける口実が欲しかっただけなのだから。



今日、会ったことで、雅人は私のことをしっかりと記憶したはず。
後は、一人の時を見計らって、雅人に声をかけるだけだ。



以前の私なら、躊躇うことなんて少しもなかったことだろう。
だけど、今はそう簡単には動けない。
私には守るべきものがあるのだから。



家庭も柴田も、決して手放したくはない。
その想いが私を慎重にさせる。
雅人のことを諦めれば、こんなに悩むこともないのだろうけど、それだけは無理だ。



(雅人だけは、必ず手に入れる…)