他の誰かのあなた

嬉しくて思わず笑みがこぼれた。



チャンスだ!
今のうちに、連絡先を渡せ!



まだ早い!
失敗は許されないのだから慎重に。



私の心はせめぎ合う。



「あ、あの……」

私が話しかけた時、晴美が戻って来た。
私は、自分が何を言いかけてたのかもわからないまま、口を閉ざした。





ランチが済み、晴美達とは店の前で別れた。



名残惜しいのは山々だけど、雅人が私のことを覚えていてくれたことがわかったから、今日の目的は達成されたと言える。



「ふふ……ははは……」

なんだかとても気分が良くて、ベンチでひとり笑ってしまった。



会食にはけっこうたくさん来てたのに、雅人は私を覚えててくれてた。



(きっと、雅人とはうまくいく…)



小さかった予感が、急に現実味を帯びたような気がした。



(今度は、絶対に失敗しない!)



私は自分に言い聞かせる。



柴田との家庭は壊さずに…
もちろん、雅人の家庭も…
ただ、雅人と会ってる時だけ、雅人を私のものにしたいだけ。
それだけで良い。



私はベンチから立ち上がった。
さぁ、これからとりあえず服を買い、家に帰ろう。
柴田の待つ家に。



(そうだ、ケーキでも買って帰ろう。)



照れくさい程、心が弾んでいた。