他の誰かのあなた

「……あれっ?……晴美?」

小洒落たレストランの前で、二人が立ち止まって話していた時、私は白々しく声をかけた。



「由希じゃないの!どうしたのよ!」

「うん、ちょっとショッピングに来て、お腹空いたからランチでもって思ったら、あなたがいたから…」

雅人は、私に小さく会釈をした。
私も同じように頭を下げる。



「ご夫婦でお出かけなんて、仲が良いのね。」

「違う、違う。滅多にないことなのよ。
最近、あまりにも一緒に出かけてないから、無理やり今日は一緒に来たのよ。」

「またまたぁ。」

私の視線は晴美に注がれてはいたけれど、全神経は雅人に集中していた。
雅人は何も話さない。
私のことは覚えてるんだろうか?
そのことが気になって仕方なかった。



「私達も今からランチを食べるつもりだったんだけど、由希も一緒にどう?」

私の希望通りのことを晴美が言った。



「馬鹿言わないでよ。
私みたいなお邪魔虫がいたら、迷惑じゃない。」

私は心にもないことを言った。
晴美は絶対に引き止めてくれると信じていたから。



「そんなことないわよ。
ねぇ、雅人?」

「えぇ、是非……」

雅人が呟いた。
あぁ、そうだ、この声だ…
会食の時、私の名を呼んだこの声…
頭の芯がぼーっと痺れた。