他の誰かのあなた

何日も張り込んでいた甲斐あって、雅人の行動が少しわかった。
帰るのは7時前後。
金曜日には、同僚と飲みに行くことがある。
そのことは晴美も話していた。
雅人はお酒が好きだから、たまに飲んで帰って来る。
それがわかってる時は、家事の手を抜く、と。
お弁当を食べたりしているようだ。
晴美達は共働きだから、休める時は休みたいって言っていた。
飲みに行く店も、把握した。



どうしよう?
偶然を装おって話しかける?
でも、私のことを覚えているとは限らない。



(そうだ……!)







「じゃあ、行って来るね。」

「ゆっくりしておいで。」

「ありがとう。」



ある日曜日、私は一人で出かけた。
柴田には、服を買いに行くと言って…
今日、晴美は雅人と映画を見に行くと言っていた。
詳しいことは訊ねなかった。
あくまでも、偶然を装いたかったからだ。



私は、映画館の傍で張り込んだ。
昼近くになって、雅人と晴美が映画館から出て来た。
晴美の趣味だろう、ラブロマンスの映画を見たようだ。



(雅人……)



面食いの晴美が選んだだけあって、やっぱり素敵だ。
スーツ姿より、カジュアルな普段着の方が良く似合う。



時間から考えて、これから二人はランチに行くはずだ。
私はこっそりと彼らの後をつけた。