他の誰かのあなた





大学を卒業し、柴田と結婚し、穏やかに暮らしていたのに、晴美の結婚でまた気持ちがざわめき始めた。




(雅人……)



あの日以来、雅人のことが頭から離れなかった。
昔の私なら、きっと、会食の時に何らかのアプローチを仕掛けていただろう。
そう、たとえば、携帯の番号を渡したり…



そうしたい気持ちはあったけど、達也のことがまだひっかかっているのか、私には自信がなかった。



あの時よりも私は歳を取り、しかも、結婚している。
結婚している身で、結婚している相手に手を出すのは
罪が深い。
独身だった今までとは違うのだ。



そう思えば思う程、体が熱くなった。



(雅人が欲しい…!)



その気持ちは、日々強くなった。
けれど、自制する気持ちも大きかった。



うまくいくはずがない。
失敗すれば、大きなリスクを背負うことになる。
柴田は確かに優しいけれど、さすがに不倫となれば、普段のようにはいかないかもしれない。
下手をすれば、離婚される。



柴田とは、一生添い遂げたいと思っている。
別れてしまったら、私はまたしがない事務員に逆戻りだ。



確かに、まだやり直せる年齢ではあるけれど、私は柴田には何の不満もないのだ。
そんな人とまた巡り会えるとは思えない。
だから、別れたくはなかった。