他の誰かのあなた

「……もしかして、彼氏?」

なんと気配りのない男なんだろう。
返事をする気にもならなかった。



「いきなりひっ叩くなんて酷いね。
でも、こんな決定的なシーンを見られたら仕方ないか。」

達也はそう言ってクスクスと笑う。
本当にデリカシーのない男だ。



「……彼が、私達のこと、知佳に話したらどうする?」

達也の態度がカンに触ったから、ちょっと意地悪なことを言ってみた。



「えーっ、それは困るね。
トラブルはごめんだよ。」

この男は自分のことしか考えていない。
余計に苛ついたけど、良く考えてみれば、それは私も同じだ。
そうだ…私達は良く似ている。



「ふふふ…はは…」

そう思ったら、なんだかおかしくて、笑ってしまった。



「何?なんで笑ってんの?
普通なら、泣くとこだよ。」

確かにそうだ。
普通なら、こういう場合は泣くのかもしれない。
なのに、私は泣くことなく、笑い続けていた。



布川のことは愛していたはずなのに…
結婚まで考えていたのに、なぜ、こんなことになってしまったんだろう?



そう、全ては私のせいだ。
私の悪い癖のせい。
こんなつまらない男がほしくて、私は布川という素晴らしい男を失ってしまったのだ。



私は馬鹿だ。



そう思うと、私の笑い声はなお一層大きくなった。