他の誰かのあなた

こんなことは初めてだったから、動揺した。
私を抱いておいて、知佳とは別れないだなんて、どういうこと…?
私の何が知佳に劣っているというのだろう。



わからないことばかりだった。
だけど、ひとつだけわかっていたことがある。



私は失敗したのだ、ということ。



今まで一度も失敗したことがなかったから、それはかなり大きなショックだったけど、でも、現実は現実だ。
それは受け止めなければならない。



「わかったわ。じゃ…」

私が立ち去ろうとするのを、達也は腕を引いて引き止めた。



「待ってよ。そんなに急ぐことないじゃない。」

「どうして?あなたは、この先も知佳と付き合うんでしょう。」

「それはそうだけど、君とも付き合うよ。」

「え?」



達也の言葉の意味が、私にはわからなかった。



「だって、僕はまだ君のこと、あんまり知らないじゃない。
体の相性が良いことはわかったけど、それだけ。
だから、このまま、知佳に隠れて付き合おうよ。
そしたら、君の方が好きになるかもしれない。
そうなったら、知佳と別れて君と付き合うよ。」

冷静に考えれば、この男は自分に都合の良いことを言ってるに過ぎない。
けれど、もしも、しばらく付き合って、彼が私の方になびいたら…
私は今回も成功したことになる。



そう思うと、達也の言うようにするのが得策のように感じられた。