「人間を描くとなると、自然とその人の感情を、表情だとか仕草とかで表現しないといけないから。……それで、練習してみろって、先生に言われた」
「……そう、なんだ」
「でも、今まで風景ばっか描いてきたからさ。いきなり人を描くとなると難しいし、いったい誰を描けばいいんだよ、って」
困ったように、少し投げやりな口調で吐き出された、三澄くんの心の内側。
「描きたい人なんて、いなかったし。……けど」
黙って続きを待っていると。
三澄くんの視線が、ゆっくりと持ち上げられて。
きれいな瞳が、わたしを捉えた。
「筆が進まなかったときに、……上村さんと屋上で会って」
わたしを見つめている目が、そっと細められる。
「ぽろぽろ涙を流しながら、俺を見上げる顔を見て、……このひとだ、って思った」


