えーっと……。


目の前にいる若い男の先生を見つめながら、わたしは困り果てた。

名前がちっとも浮かんでこない。

顔は見たことがあるけれど、授業を受けたこともなければ、話したこともない先生だ。

呼び止められる心当たりすらもなく、小さく首を傾けたけれど。


「三澄から聞いたけど、練習の件、ありがとね」


先生の口から飛び出した内容に、わたしは内心びっくりした。

まさか、すでに知っている人がいるだなんて。


隣で、さやちんが説明を求めるような目をこちらに向けた。


「あいつ、結構悩んでたみたいだから……上村さんにも予定があるだろうけど、できれば力になってやって。向井(むかい)先生には俺からも話しとくからさ」


向井先生——サッカー部顧問の先生の名前があがり、わたしは気がついた。

三澄くんからわたしの話を聞いた、ということは。
目の前の先生はもしかしたら、美術部の顧問なのかもしれない。

一歩遅れて、わたしは「はい」と上ずった声で返事をした。


先生は満足げに微笑むと、歩を進めようとこちらに背を向ける。


「あの、先生」


慌てて、それを呼び止めた。