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歩く振動で、頭が、ぐわんぐわんと揺れている感覚がする。
緊張で、手のひらがじっとりとしてきたのがわかる。
わたしの少し前を歩く、三澄くんの背中。
離れたところから眺めるだけだったはずのこの背中を、まさか、こんなに近くで見る日がくるなんて、思ってもみなかった。
漠然と、自分とは住む世界が違うひとだと思っていたから。
屋上で言葉を交わしているのが三澄くんだと気がついた瞬間も、ある意味ドキドキした。
わたしの中で、三澄くんはまるでアイドルのような、遠い存在で。
だからこそ、ヘンなところを見られてしまったことが、なおさら恥ずかしいんだ。
廊下を進んでいく度、わたしたちに注がれる視線は増えていく。
ヒソヒソと話し声まで聞こえてくる。
——三澄くんが、昼休みに女の子を呼び出した。
その事実が、みんなの関心を引きつけている。
名前を呼ばれ、教室から連れ出されたわたしを見送る、クラスメイトの反応といったら。
あまりのショックで声を上げる女の子たちや、冷やかしの声を上げる男の子たち……。
本日一番の、盛り上がりを見せていた。
一瞬で注目のマトとなってしまったわたしは、混乱するばかりで。
動けなくなっていたところを、さやちんに無理やり押し出されてしまい、今に至る。


