「わたしはたった今、はしゃぐ気満々で、ここにきたのに?」
眉を下げて聞き返すと、ちらりと視線をよこされる。
しばらく見つめ合ったままでいると。
三澄くんの耳がほんのりと赤く染まっていくように見えて——。
「……ありがと」
ぎゅっと抱きしめられて、わたしの耳元に三澄くんの声が響いた。
「ほんとは、……めちゃくちゃ、嬉しい」
「うん。ほんとに、おめでとう」
「上村さんのおかげ」
「わたしはなにもしてないよ」
「いや。……上村さんとの練習で、感情を筆に乗せる感覚、掴めたし。楽しく描けるようになった」
「……そっか」
『あの絵、誰が見ても、俺はこの子のことが好きです〜って言ってるようなもんだよ』
先ほどの春野先生の言葉を思い出して、じんわりと頬が熱を帯びた。
わたしとの練習で、感覚を掴めたってことは……。
やっぱりあの絵には、わたしのことを好きっていう感情を、込めながら描いてくれたってことなのかな。
うう……。
ものすごく嬉しい。
素敵なあの絵を、誰にも見せずに独り占めしたい気持ちと。
見せびらかして、自慢したいような気持ちとが混ざって、複雑だ。


