「な、……」
なにを言ってるの、と発しようとした俺の声は、喉元で詰まった。
頭が追いつかないまま、呆然とその場に立ち尽くす。
上村さんが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
ふたりの距離が縮まるにつれて、俺の心臓が、激しく鼓動を刻みだしていた。
「わたし、三澄くんのことが、——好きです」
「……」
動揺を隠す余裕なんて、ちっともなかった。
上村さんからもらった言葉の意味を、充分に時間をかけて理解する。
……先ほどまでの憂鬱な気分が、弾けるように掻き消えていった。
——恋愛のことは、よくわからない。
けど、……上村さんに笑ってほしいと思ったとき、これが、いわゆる恋なのかもしれないと思った。
美術室の窓からの眺めの中で、サッカー部員と楽しそうにはしゃぐ上村さんを見るのは、面白くないと思った。
好きになるんじゃなかった、と泣く上村さんを見て、こんな風に想われている知らない誰かのことを、うらやましいと思った。
はじめてだらけの感覚に、……どうするべきかなんて、ちっともわからなくて。
はっきりとしていることは、ひとつだけだった。
上村さんにはすでに、――好きな人が、いたということ。
「……俺の、好きな子は」
やっとの思いで発した俺の声は、ひどく掠れていた。
「俺のことを好きになってくれないって、思ってた」


