こころが揺れるの、とめられない



「わたし、三澄くんの言う通り、嘘つきだった」


弾む息をそのままに、上村さんは俺に向かって、必死に言葉を紡ぐ。


「他の誰かを好きな人を、好きになるの、いいことない、って……。あれ、間違ってた」


俺は、突然のことに驚いて、その場から動けなかった。


「三澄くんの、こと、好きになって、……わたしは、笑顔になれた」


上村さんは、胸に抱いていたキャンバスを、こちらに見せるようにして、


「——こんな素敵な絵を見せてくれて、ありがとう」

「っ、それ」


みぞおちを打たれたような衝撃に、たちまち頭が真っ白になった。

上村さんが持っていたのは、俺が昨日、上村さんが帰ったあとに、やけになってひとりで描き上げてしまった絵だった。



――どうして、上村さんが。


準備室に、仕舞ったはずなのに。

誰にも見せるつもりなんて、なかったのに。

自分の感情を、ただ消化するために描いたものだったのに――。


「この絵を見て、……三澄くんに他に好きな子がいても、わたしの気持ちが叶わなくても、嬉しいって感じる気持ちは、変わらないんだって。……三澄くんと一緒にいた時間、ふわふわして、ドキドキしてたことも、変わらないんだって、思えたの」


耳に心地よいよく通る声で、そう言って、上村さんは笑顔を浮かべた。


「わたしのこころ、三澄くんの絵に、動かされたよ」


ぽろぽろと涙をこぼしながら、明るく笑うその表情は、……あの日、俺が見たいと願った景色と、そっくりだった。