……正直、気にしたこともなかったな。 吹奏楽部の個人練習を聞くのと、同じような感覚だった。 耳に届いてはいるけれど、きちんと認識することがないまま体を通り抜けていくだけの、音。 「……今度、俺も応援してみることにするよ」 そのとき俺は、冗談めかして、そう言っただけだった。 けれど、この会話が、たまに窓の外の様子に意識が奪われるようになった、些細なきっかけとなったのは確かだった。 そして、……上村さん個人を認識したのは、2年に上がって少し経った、春のことだった。