上の階から聞こえてくる楽器の音が頭に響く。
倦怠感を感じ、誰もいない廊下で息を吐き出した。
——それに……。
上村さんのことを慰める役目に適任な人物は、他にいる。
昨日、俺はそれを思い知ったんだ。
上村さんが泣いているところを見るのは、はじめてじゃなかった。
けど……。
らしくもなく、感情任せに彼女を傷つけるような行動をとって。
自分が涙の原因となってしまったのは、はじめてのことだった。
屋上で、最初に言葉を交わしたときのように。
ぼろぼろと涙を流しながら、俺から逃げていく上村さんを呆然と見送って。
自分がしたことの重大さに我に返り、後を追いかけたときには、……もう遅かった。
上村さんと仲のいいサッカー部の男が、ひと足先に彼女の涙を拭っていた。
そして、その様子を見たら、わかってしまった。
——上村さんの好き“だった”人は、上村さんのことを同じように大切に思っている。