綾人の腕が背中に回り、わたしの体をぎこちなく包み込む。
はじめて聞く綾人の鼓動は、思っていたよりもはやくて、強くて、……なぜだか、目元の熱がぶり返した。
——綾人と可奈ちゃんが、付き合ってるわけじゃなかった。
その事実を知ったとき、わたしの頭には、——じゃあもしも、わたしも告白をしていたら? って、考えが過った。
その答えはきっと、一生わからない。
あの日の屋上で、わたしを襲ったいくつもの後悔。
それはたくさんの痛みを、わたしに与えて、いつの間にか消えていった。
だけど……。
たとえ傷つくとわかっていても、自分の気持ちときちんと向き合って、綾人の気持ちときちんと向き合って。
逃げずにいれば、……なにかが変わっていたのかな。
今になって生まれた、そんなひとつの後悔。
それはわたしのこころに痛みを与えることなく、ぽっかりと、大きな風穴を開けた。
吹き抜ける言いようのない寂しさが、わたしのこころをひんやりとさせて。
……あの日の屋上で感じた灼けるような熱い痛みを、なんだかとても、愛おしく思えた。