「……よかったね」
パタン、と。
わたしの頭上で手を伸ばした三澄くんが、力を加えて扉を閉めた。
「あの人なんだろ。上村さんの好き“だった”人って」
いつだったか。
わたしがわざわざ訂正したときのように。
だった、の部分を強調して、三澄くんが言った。
言い当てられてしまい、わたしは、肯定も否定もできなかった。
「……帰る前に、聞いていい?」
わたしの答えを待つことなく、三澄くんはさらに続けた。
振り向くと、思ったよりも近い距離に、胸が弾む。
「前に、好きなのやめるのは簡単だって、言ってたよね」
いつも通りのポーカフェイスで、わたしを見下ろして。
その奥に秘められた感情は、読み取れない。


