みぞおちを突かれたように、わたしは声も出なかった。
体が、急激に冷えた心地がした。
「……みくる。わたしたち、付き合ってないよ」
可奈ちゃんの優しい声が、わたしの脳を、くらくらと揺らす。
「だから、気を使う必要、なかったんだよ」
足元が、波にさらわれるような感覚。
気を抜いたら、倒れてしまいそうだった。
――蘇るのは、からんとした陽が差す、非常階段の踊り場。
こちらに背を向ける綾人の向こうで、照れたようにはにかむ可奈ちゃん。
綾人が受け取った、リボンで可愛く飾り付けられた紙袋。
『綾人のことが好き』
扉を挟んで様子を伺っていたわたしに聞こえた可奈ちゃんの声は、少し震えていた。
それは、……わたしがずっとずっと、心に秘めていた言葉と、同じものだった。