「ありがと」
「ううん……こちらこそ。三澄くんが守ってくれなかったら、わたし、今頃鼻血だらだらだったかも」
あのまま、顔面でボールをキャッチする自分を想像する。
……絶対痛いし、絶対かっこ悪い。
「だから、ありがとう」
こんなことを思うのは、少し子供っぽいかもしれないけれど。
あのときは、……王子様みたいに、見えちゃった。
本人には、とても言えないような本音。
そんな、ちょっぴり照れくさいことを考えると、……なんだか、息がつまるような心地を覚えた。
再び訪れた静寂。
お互いの瞳が、……なんとなく、お互いを映しあって。
視線が吸い込まれるみたいに、離せなくなる。
「……まだ、戻らない方がいいかな。俺たちが勝手にいなくなってたら、五十嵐先生が驚くかも」
確かにそうかもしれない。
三澄くんの言葉は、充分納得できるものだったけれど。
……どこか言い訳じみて聞こえたのは、気のせいかな。


