廊下は、すっかり人けがなかった。
誰もいない保健室までの道のりを、ずんずんと進む。
白い扉の前に到着すると、——手を伸ばすと同時に、ガラリ、と取っ手がわたしの指から逃れた。
「あら」
中から先に扉を開けたのは、お水とビニール袋と紙袋を抱えた、養護教諭の五十嵐先生だった。
「どうしたの? ……怪我?」
「はい。……突き指かもしれなくて」
窺うような視線を受けて、わたしはチラ、と三澄くんを振り返る。
……当の本人は、なんともないって顔をしているけれど。
「先生は、……どこかに行くところですか?」
「そうなのよ。さっき、具合悪くなった子がトイレに駆け込んで、そこから動けないみたいだって報告を受けたの。様子を見に行こうと思って……」
「……そうですか……」
なんてタイミングが悪いんだ。
三澄くんの大事な左手が、怪我をしちゃってるかもしれないのに。


