わたしは思い出したように、さやちんの方へと駆け出そうとして、
「みくるっ!」
体育館に響き渡る自分の名前が聞こえて、反射的に踏みとどまった。
焦りを含んだその声は、綾人のものだったような気がした。
——けれど。
確かめることは、許されなかった。
振り返れば、ものすごい勢いで視界に迫る、バレーボール。
あれ。
さっき、片付けなかったっけ。
なんて、咄嗟に動けない体とは反対に、頭は呑気なことを考えていた。
——ぶつかる。
ドッジボールでは、一目散に退場してしまうタイプだもん。
わたしはよけきれないと判断して、頭への衝撃を覚悟した。
庇おうとする腕は間に合わなくて、せめてもの気持ちで、強く強く、まぶたを閉じた。


