わたしは、綾人に向かって払ったままにしていた手を、——今度は、手のひらを前にして、三澄くんに向けて小さく振ってみた。
三澄くんが、ふっと表情を柔らかくする。
ジャージのポケットに入れていた手を外に出して、ひらひら、と振り返してくれた。
——また明日、放課後に。
まるで、テレパシーみたいに。
そんな言葉が、お互いの間で飛び交ったような気がした。
言いようのないない感情が、わたしの胸をいっぱいに満たしていく。
体がふわふわ軽くなる。
……勇気出して手を振ってみて、よかった。
巻き起こる、不安にも似た感覚。
だけど、……心地がいい。
正体のわからない、三澄くんがわたしに与えてくれる、不思議な気持ち。
……ひょっとして、これは優越感というものなのかな。
わたしってば、みんなの人気者の三澄くんと、みんなの知らない時間を共有してること、嬉しく思ってるのかもしれない。
抜け駆けみたいなこの状況を、喜んじゃうだなんて……。
なんだかちょっと、……嫌な奴じゃない?
そこまで考えて、危うくニヤけてしまいそうだった口元を、キュ、と引き締めた。


