「先生。」

「なんだよ。」

「奥さん…、元気ですか。」

「そんなわけないだろ。」

「そうですよね。ハヅキくんのこと、心配ですか。」

「当たり前だろ!あの日から毎日毎日、自分達を責めて後悔して、一秒でも早くハヅキを抱き締めてごめんなって、愛してるって…言えたらどんなにいいか…。」

「先生。」

「…。」

「ハヅキくんは、先生が見つけてくれるのをずっと待ってますよ。」

「見つける?」

「はい。きっと…、きっといい子にして待ってます。」

「…そうだな。」

「先生。」

「何。」

「おうちの中、きっと暗いでしょ?知らない人達に嫌なことだって言われてる…と思うし…。私は先生の味方です。先生がちょっとでも気が休まるなら私…。」

ふわっと先生の匂いがしました。
ヘアワックス?香水?ハンドクリーム?
もしかしたら柔軟剤かも。

なんの香りかは分かんなかったけど、ちょっとだけ甘ったるくて、フルーツみたいな匂い。

すぐに忘れてしまいそうな、一瞬だけのキスを先生はしてくれました。
先生が教えてくれた「大人のキス」とは違う。
Dとしたのよりも、もっと短くて、温度すら感じないキス。

先生は笑ってもなくて、怒ってもいない。
ちょっとだけ悲しそうな目をしてました。