「はい。」

先生の手を取って、その手にパスケースを握らせました。

「なんで…。」

「なんで、なんでって。先生、さっきからそればっかり。」

ゴクンって、先生の喉が鳴ったのが聞こえました。
なんで?って聞きたいのは私のほうです。

なんでそんなに怖がってるの?
何が不快なの?

「どこにあった?」

「さぁ。どこだったかな。覚えてません。」

「そんなわけ無いだろ。」

「ほんとです。でも拾ったのが私で良かったですね。私じゃなかったら不正利用されてたかも。」

「別に…、定期券くらいしか入ってないし。」

「ふーん。まぁいいですけど。」

「…ありがとう。助かったよ。着替えようとしてる時に気付いたんだ。無くなってることに。学校を出る前で良かったよ。」

「そうですね。」

きっと私を疑ってたと思います。
そんな目をしてました。

でもそんなこと言えるわけないですもんね。
教室を出ようとした先生を、引き止めました。

「待ってください。」

「え?」