「何で?」

「何でって、別に…。向こうからされたから?それだけです。」

キスなんてどうってことない。
取るに足らないことだって装って、全然気にしてないってフリをして、その本音はただ先生の気を引きたい一心でした。

先生は私を見ていました。
周りには誰も居ませんでした。

公園の大きな時計を見たら、七時になるちょっと前とかだったと思います。

醤油を買いに行っただけの先生が何十分も帰らなくて、奥さんはそろそろ不安になってるんじゃないかなって思いました。

生ぬるい風が吹いてて不快だったんですけど、一生このままここから動けなくなってもいいって思ってました。
先生と二人なら。

「ガキ。」

「え?」

「そういうとこがガキだって言ってんの。」

「何で…。」

「お前さ、俺にどう思われたいの?」

「どうって…。」

「貞操観念の低いガキか?それとも大人ぶってるつもりならやめとけ。キスくらいでイキがんなよ。」

「じゃ…、じゃあ大人はどんなキスすんの!」

陽が落ちてきていて、ベンチの横に立った街灯が頼りなく灯っていました。

このまま完全に夜になって、
世界から私と先生を隠してって、心で何度も繰り返しました。