翌日は登校しました。
ハヅキくんをケージに入れることは、実はちょっと戸惑いました。

でもしょうがない。
他の子どもとは「出来」が違うけど、それでもまだ幼児です。
子どもは予想外の行動をとる生き物ですから。

大人しくケージに入ってくれたハヅキくんは「いってらっしゃい。」って手を振ってくれました。

振り返した自分の手を見ながら、母性とか愛着って厄介だなって思いました。

玄関を出て、しっかり鍵を締めました。
右隣の隣の住人とすれ違いました。
三十代半ばくらいの女性です。

あー、そうです。
黒髪の綺麗な!

へぇ。その方のお部屋にも聞き込みに行かれてたんですね。
私が逮捕された時、なんて言ってました?
え?守秘義務?…つまんないの。

よくあるじゃないですか。
犯人が捕まった後、テレビでモザイクをかけられた知人が「そんなことする人には見えなかった。」って、加工された高い声で喋ってるやつ。

そりゃそうですよね。
「そんなことする人に見える」わけないじゃないですか。
ほとんどの人間は狂気なんて隠して暮らしているのに。
見抜くとか、エスパーじゃあるまいし。

…でも、ほとんどの人間の中に、狂気は潜んでるのにね。

それで、マンションの住居者とはあんまり顔を合わせないけど、会えば挨拶くらいはします。
その時も、おはようございますって会釈をしました。

その女性も軽く頭を下げて、「どうも。」って微笑んでくれました。

「おはようございます」に対して、「どうも」ですよ?
ちょっと大人の余裕を感じましたね。

そんなこと無いって?
JKはあんな女性に憧れるものなんです!

あの時、あの人もまさかドアの向こうで話題の幼児が捕まってるなんて思わなかったでしょうね。
誰かが私の部屋のドアの前を通っても、ドキドキもしませんでした。
不思議なくらいに。