おねーちゃんの体温も感触も忘れてしまった。

声も顔も、そのうち少しずつ、完全に忘れてしまうのだろう。

世間だけが騒ぎ続ける、日本を揺るがせた未成年による幼児誘拐・殺人事件。

嘘か本当か分からない、当事者でもない人間の憶測に踊らせれて嬉々として追い回し続ける野次馬達。

当事者だけを置いてけぼりにして。
俺の意志も、おねーちゃんの真実も捻じ伏せられて。

おねーちゃんが犯した事実は決して消えない。
それを抱えて生きていく義務があるだろう。

それでも俺はおねーちゃんを責めない。
俺だけはずっと、おねーちゃんの味方だ。

理解されない恋。
狂気。
悪魔の顔。

けれど俺にだけ与えてくれた愛情や慈しみは、それだけを信じてこの先を生きていくには、十分過ぎるんだよ。