ポケットに手を入れると、指先にぬるくて固い感触がした。
おねーちゃんが最後に俺にくれた宝物。
大好きだったヒーローの缶バッジだ。
俺はこの缶バッジのことをずっと忘れていた。
最後の日の記憶は、おねーちゃんに呼ばれてリビングを出たこと。
知らない男が二人立っていたこと。
最後に抱き締められた時のおねーちゃんの顔と、突然晒された太陽の熱。
自分の泣き声だけだ。
日本に帰国することが決まって、そして海外で暮らした家を出る日。
両親が空港まで見送りに来た。
母がトイレに行っている間に、父にこの缶バッジを渡された。
「ずっと渡せなくてごめんな。」
「何、コレ。」
「はは。やっぱり憶えてないか。でもいいんだ。ハヅキにとってきっと大切な物だから持っていきなさい。」
「どうしたの、コレ。」
「ハヅキが保護された時、お前のポケットに入ってたんだ。警察は気付いて無かった。だから俺が預かってた。いつか…もしもその気になったら返してやろうと思ってな。」
父は、子どもみたいにハニかんで笑った。
おねーちゃんが最後に俺にくれた宝物。
大好きだったヒーローの缶バッジだ。
俺はこの缶バッジのことをずっと忘れていた。
最後の日の記憶は、おねーちゃんに呼ばれてリビングを出たこと。
知らない男が二人立っていたこと。
最後に抱き締められた時のおねーちゃんの顔と、突然晒された太陽の熱。
自分の泣き声だけだ。
日本に帰国することが決まって、そして海外で暮らした家を出る日。
両親が空港まで見送りに来た。
母がトイレに行っている間に、父にこの缶バッジを渡された。
「ずっと渡せなくてごめんな。」
「何、コレ。」
「はは。やっぱり憶えてないか。でもいいんだ。ハヅキにとってきっと大切な物だから持っていきなさい。」
「どうしたの、コレ。」
「ハヅキが保護された時、お前のポケットに入ってたんだ。警察は気付いて無かった。だから俺が預かってた。いつか…もしもその気になったら返してやろうと思ってな。」
父は、子どもみたいにハニかんで笑った。



