事件が発覚して、俺は警察の手によっておねーちゃんから引き剥がされた。

ひどく泣き叫んでいたように思う。
おねーちゃんが最後に握ってくれた手の感触を、もう思い出せないことに、何故か繰り返しずっと、傷付いている。

保護されてから、父と母が警察署に駆けつけた。
俺の姿を見た母は、俺と同じように泣き叫んできつくきつく、抱き締めた。

おねーちゃんとは違う匂い。
おねーちゃんとは違う感触。

苦しくて苦しくて、俺はその場で吐いた。

長く監禁されていたことの精神的苦痛を懸念されて、すぐに病院に搬送された。

母はずっと「もう大丈夫だからね。ごめんね。」と言い続けた。

けれど、警察や沢山の大人の前で見せた母のその涙は偽物だったと思う。

自宅に無事戻り、海外に移住してからも、母は何も変わらない。
誘拐されていた一人息子が帰還しても、暮らしのステージを変えても、母の愛情はずっと薄かった。

誘拐される前から本当は心のどこかで思っていた。

母の興味は自分には向いていない。
優しい時の母は、父の興味を自分に向けたいから、だと。

人間は簡単には変われない。
どんなに人生において重大なことが巻き起こっても、一瞬どれだけ後悔しても、変われる人間なんてすごく少ないのかもしれない。