海外に移住する時、初めは母と二人だけだった。

父は裁判が終わるのを待って、日本を出た。
母は裁判への出廷を一切拒否した。

海外で生活を始めてからは、事件の話はタブーだった。
父も母も、口にしようとはしなかった。

けれど母はなんとなく、思い詰めた様子もトラウマを抱えることも無かった。

それは、俺も同じだった。

精神的に何らかの要因を背負うことになるかもしれないと周りは思っていたけれど、俺がそうなることは無かった。

事件の話を誰もしないし、日本にも居ないから、その後おねーちゃんがどうなったのか、関わった人達の生活がどう変化したのか、知らないまま俺は成長した。

高校入学を機に日本に帰国して、図書館の新聞で当時の関連記事を読んでいた時に、リズちゃんの母親は裁判の途中で自殺したことを知った。

おねーちゃんの証言によって、虐待やネグレクトが明るみになり、娘を殺害、さらには損壊された被害者であるにも関わらず、母親も鬼と違いないと世間から酷くバッシングされたことによる、らしい。