四月。

十五歳。

あの頃の「おねーちゃん」と同じ年齢になった俺は、高校入学を機に日本に帰国した。

事件のあと、病院での検査やリハビリ、今後の人生の為の、精神的な治療を受けながら、小学校に入学する頃、家族で海外へ移住した。

父は日本での教師を辞めて、海外の日本語学校へ勤めた。

日本では、俺達家族のプライバシーは一切尊重されなかった。

それは同じ被害者家族である「リズちゃん」のところも同じだったみたいだ。

海外へ移住することで、父も母も精神を保てたのだと思う。

当時のこと全てをはっきりと憶えているわけでは無いけれど、まったく憶えていないというわけでは無い。

俺は四歳の時に誘拐された。
犯人は十五歳の女子高生。
理由は、俺の父親である高校教師の気を引きたかったから。

極めて身勝手で、残忍な事件へと発展した事件は、当時日本中を揺るがせたらしい。

時々ふと思い出すことがある。
マンションの一室で家族でも親戚でも無い女性と過ごした半年間を。

部屋の空気。
抱き締められた時のおねーちゃんの体温。
眠る時は一緒にベッドに入れてくれたこと。

狭いケージの中。
それに対する嫌悪感が一切無かった自分。

おねーちゃんだけが俺の命だった。
おねーちゃんが居なくなったら俺は死んでしまうと本能的に感じていたのだと思う。

依存だ。
そうすることで自分自身を守っていたし、
それよりも強い感情で、おねーちゃんにも俺が必要なんだと感じていた。