金曜日。

一時間目の体育をサボって、屋上に上って、コンクリートの地面に寝転んで空を見てました。

薄い水色でした。
地面が冷たくて、でもそれも心地良かったです。

風が吹くたびにスカートが揺れて、太ももがすごく冷えました。

運動場からホイッスルの高い音色が小さく聴こえました。

伸びのいい、先生のホイッスルが好きだった。
同じ高さに居たら、私にももっと聴こえたんだろうな。

先生が鳴らすホイッスルの音が好き。
違う場所に居ても先生がどこに居るのか分かるから。

突き抜けるような高音。
高く高く伸びていくみたいな音。

フェンスに近寄れば運動場を上から見下ろせたはずだけど、私はそうしませんでした。

ただ仰向けで寝転んでずっと空を見てました。
雲がゆっくり流れていくのを見て、電線に名前の分からない小鳥がとまるのを見て、それから目をつむって先生のキスの仕方を思い出しました。

ずっとそうしていたかったのに、気付いたら私が考えていたのはハヅキくんのやわらかい髪の毛。
ベッドで一緒に丸まる時のちょっと高い体温。

大きな声を出さないように口元を押さえてハニかむ顔。

多分、私は泣いてました。
泣いてることに気付きたくなかったから視界が歪まないように目は閉じ続けたままで。

チャイムが鳴るのと同時くらいに、また先生の綺麗なホイッスルの音が響きました。

私はこの半年間、先生が私に振り向いてくれるか、憎しみで一生憶えていてくれるか、そうなることを望んで人の心を捨てたのに、
結果、先生に忘れられる為の作業をしただけでした。

人の命や尊厳と引き換えにして、人の心は手に入らない。

それを学んでも、私はもう元には戻れない。

戻れないんですよね。