「あと一ヶ月。一週間…いいえ。三日とか、あと一日でもいい。私には時間が必要なんです。」

「時間?」

「はい。まだ伝えなきゃいけないことがあるんです。」

「誰に。」

「言えません。」

「…何を。」

「あなたが大切だって。幸せになってって。」

刑事さんは今度こそ本当に面倒臭そうに思いっきり溜め息をついて、ドアからかけていた手の平を外しました。

「これがな、どんな事件に発展してるか知ってるか?ガキの色恋沙汰に付き合ってる余裕は社会には無いんだよ。」

「社会?だったらなんですか?不特定多数の知らない人達の評価なんてどうだっていいんですよ。私は私の世界で、必死に生きてるんです。
刑事さん、小さい世界のちっぽけな心を笑ったらモテませんよ。」

にっこり笑った私に、刑事さんは舌打ちをしました。

「なんでも思い通りにいくと思うなよ。社会ナメんな。一つ、教えといてやるよ。マンションに防犯カメラ設置の義務は無い。でもな、児童ポルノについてお勉強しときな。おじょーちゃん。」

ヒラヒラと手を振って刑事さんは行ってしまいました。
あー、管理人さん喋っちゃったんだ。

じゃあなんで協力した?って聞かれたらなんて答えるんだろう。

とにかくもう時間がないことを悟りました。
まだなんにも伝えられていないのに。

誰にも愛してもらえないまま、私の人生が終わっていくのを感じました。