先生、私がヤリました。

お土産の袋の中には明太子や海鮮の干物、名物のお菓子なんかが入ってました。

余計なことしやがって。
どいつもこいつもって、それしか思えませんでした。

シンプルにイライラしてましたね。

お土産の袋を持って、閉めたままだったキッチンの引き戸を開けて、座り込んでるリズちゃんに投げつけました。

ひゃって小さく声を上げたリズちゃんの前に座り込んで、顔を上げさせました。

「何やってんの?」

「ごめんなさい…。」

「静かにしろって言ったよね?はーくんはいい子に言う事聞けるのに、なんであんたはお姉ちゃんのクセに出来ないの?」

「ごめんなさい。ぶたないで…。」

ぶたないで。
そう言ったリズちゃんを見て、あぁ、そうかって思いました。

そしたら急に頭の中にリズちゃんが暮らすあの陰鬱とした部屋の様子が広がりました。

狭い玄関を埋める必要以上の傘と靴。
居心地悪そうな消火器。

灰皿の中の煙草の吸い殻。
収納ケースに詰め込まれた封書のほとんどは黄色でした。
督促状ですよね。あの色って。

真夏なのに閉め切った窓。背の低い扇風機。

窓の下で死んでる金魚。

リズちゃんに手を伸ばしました。
ビクッと震えた体を無視して、服に手を掛けました。

「おねーちゃん。」

背中のほうからハヅキくんの声が聞こえました。

「あっち行ってて。」

「おねーちゃん、怒らないであげて。」

「怒ってないから。あっち行ってて。いい子でしょう?」

振り向いたらハヅキくんが泣きそうな顔で立ってました。
ニコッて笑ってあげるとハヅキくんは俯いてリビングに戻っていきました。

そっとキッチンの引き戸を閉めました。