先生、私がヤリました。

そんなこと、本当に口に出したりしません。
それくらいの分別はつきます。

「ありがとうございます。いただきます。」

お隣さんの手からお土産の袋を受け取ってさっさとドアを閉めようとしました。

「今日は親戚の子でも遊びに来てるの?」

声の調子も表情も変えないまま、そういう顔に作られたお人形みたいにお隣さんは言いました。
心臓らへんを冷たい水が流れたみたいな感覚がしました。

「親戚?いいえ?」

出来るだけ冷静な声で、それからお隣さんを見習って笑ってみました。

「…そう?子どもの声が聞こえた気がしたから。」

「子ども…。あ…、あぁ…多分それ私です。」

「え?」

「私、演劇部なんです。今度の作品で主役をすることになって。オリジナルなんですけどね、小学生の時に事故に遭って、目覚めた時には成人を越えてた、でも心は小学生の少女のまま…、って役です。ちょうど練習中だったんです。だからインターホンが鳴った時、そのままのテンションで返事しちゃいました。私って、憑依型なんですよ。」

確かそんな作品、ありましたよね?
原作があるかは分かんないですけど、ドラマで観たことがあります。
とっさに思い浮かんだその作品のことを言いました。

「そう…、なのね。本当に子どもみたいな声だったから。あなた才能あるのね。頑張ってね。」

「ありがとうございます。では、失礼します。」

今度こそ玄関のドアを閉めました。
お隣さんは疑ってました。明らかに。