先生、私がヤリました。

キッチンを出て、リビングのドアの横にインターホンの液晶モニターがあります。

これがなかなか問題児で、音がそんなに大きくないんですよね。

ドライヤーを使っている時は全然聞こえないから、もし荷物の受け取りを時間指定していたら見張りながらやらなきゃいけないし、
換気扇なんてもっとです。

キッチンに居たら聞こえなかったことがよくあって、時間指定してるにも関わらず不在扱いにしてしまったことも何度もありました。

その日もそうでした。

換気扇をつけてお湯を沸かしてそうめんを茹でる。
茹で時間は一分三十秒。

セットしていたキッチンタイマーがピピピピピッって鳴った時です。

キッチンの横をリズちゃんがスッて駆けていきました。

あれ、って思ったのと同時くらいです。

「どちら様ですかー!」

私が消しゴムの女の子とリズちゃんのおうちに行った時よりも明らかに大きな声で、リズちゃんは言いました。

ヤバイ。

一瞬にして私の頭の中はそれでいっぱい。
キッチンタイマーを止めることも忘れて、玄関に急ぎました。

マンションの一室のキッチンと玄関なんて全然遠くないのに、慌て過ぎて足がもつれそうになりました。

玄関のドアノブに手を掛けようとしているリズちゃんの口と右手を自分の手で押さえて、引きずるようにしてキッチンに連れていき、キッチンの引き戸を力いっぱい閉めました。

リズちゃんは驚き過ぎてそれ以上声は出しませんでした。
好都合です。

ハヅキくんは座り込んで膝に絵本を置いたまま、呆然とこっちを見てました。

「静かにしてて。」

ハヅキくんに向かって出したことないような低い声で言いました。
キッチンの引き戸の向こうからはキッチンタイマーの高音だけが鳴り続けてました。

ピンポーン…って、間延びしたインターホンの音が部屋に響きました。