先生、私がヤリました。

お母さんに内緒。
お友達とは違う。自分だけが特別。

そう思わせることで少女の心を動かすのは簡単でした。

初めて会った時のハヅキくんとおんなじように、リズちゃんも目をキラキラさせました。

「分かった。ただ入ればいいの?」

「うん。でも電車に乗ったりするから声を出しちゃダメだよ。サプライズは完璧じゃなきゃいけないの。」

「分かった!頑張る!」

リズちゃんは元気よく返事をして、ちょっと待っててと言って玄関へ行きました。
戻ってきたリズちゃんは熊のキーホルダーが付いた鍵を私に差し出しました。

「おうち出る時閉めて欲しい。」

「うん。」

鍵を受け取るとリズちゃんは安心したように微笑んで、そして広げたキャリーケースの中で丸くなりました。

「今からちょっと揺れるけど、頑張ってね。」

「うん。」

ゆっくりファスナーを締めました。
ちょっとだけ開けて、空気が入るようにして。

キャリーケースを浮かせて立たせた時、さっきまでとは全然違う重みを感じました。

絶頂感にも似た興奮。
あの胸のザワザワを私はよく知っていました。
ハヅキくんを拐った時の、あの気持ちです。

小さいテーブルの上に置かれた、これまた小さい置き時計。
秒針が無いから止まってるみたいにも見えたけど、ちゃんと動いてました。

短針が六。
急がなきゃ。

キャリーケースを持ち上げて、玄関に向かいました。
家の中でキャリーケースを引いたりはしません。

外で使う物なので。
家の中に何かを引いた線とか残ったら最悪じゃないですか。