先生、私がヤリました。

「良かったね。」

「お姉ちゃん、本当にありがとう。今度絶対に百円返します。」

「いいの。その代わり。」

「…？」

「今日、お姉ちゃんと会ったことは誰にも言っちゃダメだよ。パパにもママにも学校の人にも。絶対。」

「何で？」

「言ったら消しゴムを買った秘密、あの子に全部言うからね？そしたら本当に絶交だよ？」

「ヤダ！」

「じゃあ約束してくれる？じゃなきゃお姉ちゃん、困っちゃうの。」

「…分かった。」

「絶対だよ？」

「うん！」

町内放送でしょうか。
聴いたことのある童謡のメロディーが流れました。

女の子が「五時！」って言いました。

五時。急がなきゃ。

「もう帰りな。一人で大丈夫？」

「うん！バイバイ！」

バイバイと私に手を振って、会った時とは別人みたいな笑顔と軽い足取りで女の子は走っていきました。

女の子が角を曲がって見えなくなるまで、私はその背中を見送りました。
完全に見えなくなってから、周りを見渡しました。

誰も居ない。
アパートでも多分、誰にも見られてない。

住人は居るはずなのに本当はもう誰も住んでないんじゃないかって思うくらい、アパートは静かでした。
たまたまでしょうか？

無人になったはずのアパート。
あの少女はこの世の者じゃなくて、自分が死んでしまったことに気付かないままあの場所から動けないでいる。

そんな馬鹿らしい想像をしてしまうくらい、静かだったんです。