体に力が入らない。

まるで海を彷徨う浮きのように体が抵抗できず流されているようだ。

このままどこか遠くに流されていくのだろうか。

それはそれで構わない。

そもそも僕の居場所なんてないのだから。


ベッドの上で目を瞑りしばらく何も考えなかった。

窓の外は高速道路を走る車の音しか聞こえない。

普通の人なら寝静まっている時間だ。

ドアのノックが鳴った後、静かに開いた。

彼女は僕の足元に座った。

「疲れてるのね?」

僕は黙っていた。

彼女は何も言わず、そのまま座っていた。

しばらくの沈黙の後、彼女は台所の冷蔵庫から缶ビールを持ってきた。

「少しだけ話せるかしら?」

僕は重たい瞼を上げ目を開いた。

彼女は壁を見つめていた。

体を起こし彼女が持ってきた缶ビールを開けた。

「疲れてるのにごめんなさい。最近あなたの帰りが遅いから…」

「仕事が忙しいんだ。ごめん」

彼女はそう言うと僕の膝に手を乗せ自分の手を眺めていた。

僕は一口ビールを飲むと彼女の髪を撫でた。

「ごめんよ、でも生活のためには仕事をしなければならない」

彼女は首を振った。

「そういうことじゃないの。ただあなたが恋しいだけよ」

僕は彼女の頬に口づけをした。

彼女もビールを飲んでいた。

「ねえ、怒らないから素直に言ってほしいの。私のこと嫌い?」

彼女も疲れているのだろうか。

どこか目がうつろにも見えた。

「僕は君のことはもちろん、子供達のことも好きだからこうやって一緒にいるんだ」

彼女は表情を変えなかった。

またしばらく沈黙が続いた。

「今日はあなたと一緒に寝てもいいかしら?」

「すまない、できれば一人で寝かせてくれないかな?」

彼女は頷くとビールを飲み続けた。

「君がいるから僕は今の僕でいられる。それはとても幸せなことなんだ。」

彼女がやっと微笑んだ。