ただ。
嫌だと思った。
会えなくなるのは。
ここで終わってしまうのは。

そのまま吐き出せばいいのか、間違ってないのか・・・!

ゆっくり振り返った彼の眼差しに見据えられ、私の中で火花のような何かが弾けて散った。

散ったら静かになった。甲斐さんが怪訝そうに眼を細める。

「私の名前・・・、憶えてくれてて嬉しかったです」

どんな顔で言えていたかは分からない。もう一度深々とお辞儀をして、今度は自分から踵を返した。

通り雨みたいな人だった。次に降る雨が流し去ってくれればいい。面影も声も、煙草と香水の匂いも、・・・泣きたくなるような切なさも。