「母さん。母さんが大好きって言ってた小説、読んだよ」



規則正しく鳴る機械音のそばで眠り続ける母さんに、そっと話しかける。



母さんが眠り続けて一ヶ月と一週間、陽菜先輩と会えなくなって一週間が経った。


俺の日常はあまり大きく変わっていない。


ずっと胸に大きな穴が空いている感覚がするだけだ。



母さんが起きなくても、陽菜先輩に会えなくても当たり前のように時は進む。



「これで、よかったんだよね…?」



これ以上陽菜先輩と会うことは、想いが膨らむだけでよくないことだったのかもしれない。


そもそも時を越えて二十二年前に行けていたこと自体が現実味がない。夢のようだ。


そんな体験をずっとしていられるなんて甘すぎる。



これが、当たり前の日常なんだ。