【1話】
オンラインゲームが大好きな蔵梨柚子、大学生。♂。
女の子が色んな意味で大好きな彼は、日課のPCオンラインゲームをプレイしようとした途端、白猫に助けを乞われる。
その愛らしい声に「女の子が俺に助けを求めている!」と知り、あっさり応じた。
すると、洋風の部屋の一室に見知らぬ男の姿となっているではないか。
「男! キッショ!」
その時、婚約者を名乗る女性が会いに来ている、と侍女が呼びに来る。
ゼジル、と呼ばれたため、この体の持ち主が「ゼジルという名のこの国の王子である」と見当をつけて、いつもゲームを楽しむ感覚で“プレイ”することにした。




2話
「もしかして、異世界ってやつ?」
ゲームで見慣れた光景。
柚子は乙女ゲーをプレイすることはないけれど、可愛い女の子が出る漫画早く読む。
声優として仕事も少ししてあるので、ラノベだって嗜んでいる。
ここはそれらが出る世界によく似ていた。
仕方なく侍女たちの好きなようにさせて得て情報は、柚子の入った体の持ち主がこの国の王子だということ。
そして、会いにきた令嬢が、見るからに“悪役令嬢”であること。
太々しい態度、と動けば揺れる贅肉、それなのに甲高い声を出し、わざとらしく擦り寄ってくる。
普通ならば嫌悪を抱く彼女を見て、柚子は確信する。
「なるほど! この悪役令嬢を破滅エンドから助け、女王様に調教すればいいんだな!」
前半はともかく後半どうしてそう思ったのかは、本人以外に誰も知り得ない。
とりあえずラステラの家に明日行ってもいいか聞いてみた。
向こうからすれば「どうぞ」としか答えられない問いであった。

3話
ラステラは頭を抱えていた。
婚約者のゼジルが、壊れた。
いや、まだそう決めつけるのは早計だろう。
だが、突然「明日ラステラの家に行きたい」と寄り付きもしなかったラスたらの家に来たがるばかりか、カツラを発注し、ドレスの着方や流行りを教えてほしい、と言い出したのにはもう壊れた以外の言葉が思いつかない。
だいたいラステラの家に来るのも、理由が「ラステラのドレスなら男の体でも着られそう!」だからである。
なぜならラステラはお世辞にも痩せているとは言い難い。
化粧をしても隠しきれないブツブツのニキビ、そばかす。
油ぎった髪は昨日ちゃんと洗っている。
そんなラステラだが、ゼジルへの恋心は本物。
彼を迎えるために、明日の来訪を全力でおもてなしすることに決めたのであった。