それ以降、彼はぱったり現れなくなって、ほっとすると同時に胸にぽっかり空洞が開いた感覚を覚えたのだった。
子供が産まれたら急に休まなければならない時もあるだろうし、皆に迷惑をかける。だから本当に辞めようかと考えていたものの、引き留めてくれたヱモリの皆は本当に優しい。一応一年間の育休を取ってその間にどうするか決めればいいと、私に居場所を残してくれたのだ。
ところが、育休中にヱモリの近くに新たなカフェがオープンした。その影響が予想以上に大きく、ヱモリの売り上げが徐々に減り始めたのである。
どうにかしてお客様を呼び戻せないかと、私も育児に奮闘する傍らいろいろな案を考えていたのだが、さらに痛手となったのがマスターの病気だ。
ちょうど昴が一歳になる頃、突然『マスターが倒れて困っているの』と里実さんが電話で助けを求めてきた。
いくら客数が減っているとはいえ、元から少ない人数でやっていたので明らかに人員不足になってしまう。そこで、即戦力になれる私に白羽の矢が立ったらしい。
それがきっかけで、私はパートとしてちょこちょこと働き始めた。今では、足に軽い麻痺が残って事務仕事をしているマスターの代わりに、主にコーヒーを淹れるのが私の仕事になっている。



