身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 家でひと通り用事を済ませてヱモリへ向かった。出勤して早々、エスプレッソマシンや備品の準備をする私にマスターが話しかけてくる。


「都ちゃん、来週の木曜日休みになってるけど、なにか予定あるんだっけ?」
「ああ、保育園の保護者総会があるんですよ。どうかしました?」
「いや~病院行かなきゃいけないの忘れちまっててさ」
「ますたぁ」


 目を据わらせてじとっとした視線を送ると、マスターは肩をすくめてバツが悪そうに笑った。

 手刀を切って「わりぃねぇ」と謝る彼の、もう片方の手は杖をついている。実は、私がヱモリで仕事復帰することになったのは、マスターが脊髄の病を負ってしまったからなのだ。

 妊娠が発覚してつわりが始まった当初、貧血と食べ物の匂いに悩まされるようになった私は、ホールではなく主に事務のほうへ回らせてもらっていた。

 回復した嘉月さんが店に来る可能性も十分あったので、その点でもありがたかった。会ったらまた、恋しい気持ちが募ってしまうに決まっていたから。

 案の定、何度か店に来て私のことを尋ねられたらしい。スタッフ全員に事情を話していたので彼らがうまく対応してくれていたが、最終的に里実さんにお願いして『彼女は辞めたんです』と伝えてもらった。