「すみません……! ありがとうござ──」


 視界に入ってきたのは、アンニュイな髪型の可愛さのある男性の顔。知っている人だったので、私は目を見開いた。


「え、朝陽くん?」
「都ちゃん!」


 彼も私に気づいて驚愕している。まさかこんなときに偶然会うとは。

 スーツ姿だから仕事中なのだろう。にもかかわらず、「とりあえず、あそこに座ろ」と言って歩道の脇にあるベンチを指差す。私も頷き、一緒にそこへ移動した。

 木で日差しが遮られているだけでだいぶ涼しい。目を閉じて深く息を吐き出す私を、朝陽くんは心配そうに気遣ってくれる。


「つらかったら寄りかかって」
「ありがとう。でも朝陽くん、仕事なんじゃ……」
「これから次の取引先に行くけど、まだ早くて時間潰そうと思ってたから平気。たまたま通りかかったらびっくりしたよ」


 彼はカーテンから覗くように、私の髪をそっと除けて顔色を窺う。


「顔が火照ってる感じもないけど、熱中症なのかな? なにか飲み物買ってこようか」
「ううん、大丈夫。少し座ってればよくなると思う」
「本当に? ほっとけないんだけど」