「じゃあ……朝陽くん、でいいかな?」
「もちろん。〝くん〟もなくていいよ」
「それはさすがに。嘉月さんだって呼び捨てできないのに」
「怖いから?」
「違う!」
口を尖らせる私に、朝陽くんはいたずらっぽく笑った。
怖いんじゃなくて、年上の人を呼び捨てにするのってちょっと勇気がいるじゃない。
と弁解しようとしたとき、ふいに隣から威圧感を感じてギクリとした。目を向けると、案の定眉根を寄せて不機嫌さを露わにした顔が飛び込んでくる。
嘉月さん……怒ってる? これはたぶん目が疲れているせいとか、考え事をしているせいではない。
「嘉月さん? 違いますからね?」
「大丈夫、わかってるよ。呼び方なんてどうだっていい。それよりワインおかわりする?」
「あ、はい」
いつも通りと言えばいつも通りだが、心なしか素っ気ないようにも感じる。スタッフに目で合図する彼を盗み見ながら、調子に乗って喋り過ぎたかなと少し反省した。
しかしそれからも、話を盛り上げる朝陽くんのおかげで特に雰囲気が悪くなることもなく、和気あいあいとしたままデザートまで食べ終えた。
店を出て「また皆でご飯食べようね」とにこやかに言う朝陽くんと、手を振って別れる。嘉月さんの大切な人と仲よくなれたのが嬉しくて、充足感を抱いて彼の車に乗り込んだ。



