これまで見てきたお母様とはまるで別人のよう。きっと過去に不倫された経験があるから忠告しておきたいのだろうが、言いようのない怖さを感じる。
でも、嘉月さん以外の人にうつつを抜かすことは絶対にないと断言できる。
「そんなこと、するはずがありません。安心してください」
目を見つめて真摯に答えると、彼女の表情がほんのわずかに緩んだ。
そのとき、ちょうどコーヒーが出来上がってマスターから声をかけられる。お母様はゆっくり頷き、「あなたを信じてるわ」と言って手を離した。
若干胸をざわめかせつつも、平静に紙のカップを差し出す。それを受け取る彼女からは、今しがたの厳しさは消えている。
「ありがとう。お茶するだけでもいいから、また今度嘉月とウチにいらっしゃい」
「あ……はい、ぜひ! ありがとうございます」
お母様は落ち着いた笑みを浮かべて声をかけ、私の返事を聞いて踵を返した。
……一瞬、すごく怖かった。あんなに忠告してくるなんて、心底不貞行為を嫌悪しているのか、私を信用できないのか。なんにせよ、心配はいらないと信じてもらいたい。
私は少し複雑な気分で、店を出ていく彼女を見送っていた。



